林海象監督、韓国ロケレポート 1
NHKスペシャルドラマ
「大阪ラブ&ソウル~この国で生きること~」
映画学科の教員たちは全員が映画界のプロフェッショナルな為、毎週の講義やセミを真剣に受け持つ以外に、プロとしての映画制作にとても多忙である。この私は今年になってまだ映画は監督していないが、NHK大阪から依頼があり、一本のスペシャルドラマ(75分)のオリジナル脚本を三ヶ月かけて書いた。普段は脚本だけの依頼はうけないのだが、依頼してきたのが私のかつての弟子の一人である「安達もじり」ディレクターだったので思わず引き受けてしまったのだ。安達君とは7年ほど前にもNHKのFMシアターというラジオドラマで一緒に仕事をした。その時も脚本で参加した。あの頃は造形大に就任してきたばかりの時期だったので、研究室に泊り込んで脚本を書き上げた。あの頃は監督が本業で教師はアルバイトだったが、今は状況が正反対で大学業務が本業なので、その多忙な日々をぬっての脚本執筆になったが、それはそれはとても苦しい日々でした。でも苦しい日々も必ず終わるときが来る。三ヶ月ほどで何度も書き直した脚本はついに完成し、5月から大阪部分のロケがスタートした。大阪の鶴橋周辺のロケにも顔をだしたので、5月20日から始まる韓国済州島でのロケにも顔を出すと約束してしまい、なんと自費で韓国ロケに参加した。
NHKってお金ないんだよね。ビックリ。その時の様子をここに書きます。
5月25日(火)
関西空港朝9時出発のソウル行きの飛行機だが、ヤサカの乗り合いタクシーが家に迎えに来るのが朝5時のため、一睡もせずに関空に行き飛行機に乗った。
朝10時すぎには韓国済州空港に到着し、迎えにきてくれたタクシーの金さんの車で撮影現場へと向かう。現場は済州島の中央にあるハンラ山の石山公園というところで、そこで戦後におこった「四三事件」というとても悲惨なシーンを撮影していた。脚本ではあまりお金がかからないようにイメージを強調して書いたシーンだが、現場では脚本をかなり膨らませてリアルに撮影していた。つまりかなり大掛かりなシーンを撮っていた。戦後の島民たちを再現し、そして政府軍の兵隊たちに焼かれる民家など、まるで黒澤明の現場を少し小さくしたような迫力あるシーンの撮影だった。済州島は韓国の南方に位置し、日本でいうと沖縄のような場所にあたるが、山の上は済州島特有の強風が吹きすさびシベリアのように寒かった。ガタガタ震えながら撮影を見学する。日本人スタッフと韓国人スタッフの二カ国混成チームだが、顔を見ているだけでは誰が日本人なのか韓国人なのかまったく見分けがつかない。さらに二カ国のスタッフたちが見事に協力しあっているので、さらに誰が何人なのかがわからない。今回の物語のテーマは「そこには国境も人種もない」というものだが、まさにそのテーマが現実になったような現場だった。二時間ほどいたがあまりに寒くてホテルに帰る。ホテルではたった一人、どこに行ったらいいやらまったくわからないが、ホテルの人に食堂街をきいてそこへと向かう。食堂街はまったく地元の人専門といった感じの店でハングル以外の文字表記がない。えいままよ、と飛び込み、まったく言葉が通じないので隣の人の料理を指差して注文した。でてきた料理は豆腐チゲのようなもので美味しかった。ビールと言って頼んだが、ビールが通じない。こちらではベッチュというそうだ。何から何まで日本と違う。顔は一緒なのに。その夜は料理を食べてホテルに帰って寝た。ロケで思い切り風邪をひいて翌日からの数日はひどい体調だった。
(次回へと続く)




